相変わらず精神的に負荷の大きい決断を迫られるソーマ
また例によって難しげな副題が付くが、「杯中の蛇影」とは杯の中に蛇のような影が映っている状態で酒を飲んだ男が蛇を飲んでしまったと思って体調を崩すが、実はその時の影が蛇ではなくて壁の弓だったということが分かってたちまち治ったという故事だとか。つまらぬ思い込みで神経を病んじまう話のようだ。今回のソーマのことか。しかしそれだとしたらややズレているような気がする。この作品ってよくこういう故事の類いが登場するが、いつも使い方が微妙にズレてる感がつきまとうんだよな。
今回はカストール卿と娘のカルラの処分をどうするかという話。前回にはゲオルグを処刑にした(実は影の忍者軍団に転じていた模様だが)のだから、カストール卿も放免するわけにはいかない。そういうわけで諸侯を呼んで裁判ということになったようだが、そこにはソーマの別の狙いがあったと。
事前に汚濁貴族は調査の上で選別していて、カストール卿の裁判にかこつけて最後の確認をしたということのようでした。王に逆らってでも諫める気骨のある忠臣であるかを見極めたようです。まあ阿諛追従の輩を集めても百害あって一利なしですから。それも単に阿諛追従なだけなら使えないだけで無害だが、裏で他国に通じてとなったらそりゃ反逆者だから一掃しとく必要はあるな。それを冷静に判断して実行したということか。この作品のいう「現実主義者」というのはマキャベリストのことのようだが、マキャベリズムの実践は現実にはかなり精神的に負担の大きい者ですから。実際に嬉々としてマキャベリズム実践できる奴は、既にその時点で暴君に踏み込んでいる可能性が大。だからこそソーマも自身がそうなる危険を恐れてカルラにあのようなことを託したようだが。
マキャベリズムも両刃の剣だから
マキャベリズムは超現実的に権力の行使の仕方について説いたものですから。そこには倫理とか理念なんてもんはありません。むしろ君主がそんなものに振り回されたら国民はかえって不幸になるって考えなんで。もっともマキャベリズムにそのまま従ったら、君主が良心持った者なら、精神的負荷に耐えかねて壊れかねないところもあります。また君主は国民から恐れられるだけで良いものでもないんで。結局はソーマは裏でゲオルグを助けていたり、カルラにしても王室付きの奴隷ってことは、実質的に王室でかばったってことですから。まあ普通は完全に非情に徹するのは無理。
しかし実際に人は変わりますからね。若い頃は理想と希望を持っていた者が、権力の魔力に取り憑かれて段々と恣意的に権力を振り回す暴君に堕すというのはよくあること。そこまで行かなくても、若い頃は夢と理想を持って政治を目指したはずの奴が、ひたすら業者に便宜を図って汚職に手をそめる腐敗政治家に落ちるってのは非常に例が多い。権力というものに近づけば近づくほど、そこで正気を保つのは難しくなる。
で、隣国では潜伏中の姫様が巻き返しを図っていました。馬鹿兄貴を追い出して自分が国を仕切るしかないと考えたか。まああの馬鹿王子なら国民に塗炭の苦しみを課すのがオチ。革命でも起きて断頭台に乗せられる前に、さっさと実力不相応の地位から下ろしてしまうのが、妹としてのむしろ情ってもんだ。ソーマと直接交渉して、王国と友好的な貿易立国国家としてやっていく道を考えているか。まああの姫さんなら、その気に乗じてちゃっかりと王国から国内の整備費引き出すつもりだろう。
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