白鷺館アニメ棟

放送中のアニメ作品について、アニメファン歴50年以上という鷺が軽いツッコミを交えて与太話

劇場版 SPY×FAMILY CODE: White

テレビで大人気のアニメの完全オリジナル劇場版登場

お馴染みの面々がスクリーンを走り回る

 腕利きスパイと殺し屋、そしてテレパシー少女に予知能力犬が偽装家族として生活するという、テレビアニメの人気作が満を持してオリジナルストーリーで劇場登場である。

 アーニャが菓子の調理実習で優勝すればステラがもらえると聞いたロイドは、審査員の校長の好物である北のフリジス地方の伝統菓子であるメレメレを調べるべく、アーニャとヨル、ポンドを連れてフリジスへの家族旅行をすることにする。

 その移動の列車内、謎の鍵を見つけたアーニャはボンドの予知でそれが秘宝の鍵であると知る。好奇心に駆られて秘宝が入っているトランクを調べるアーニャ、しかしそこに入っていたのはチョコレート。あてが外れたアーニャだが、そこにトランクの持ち主が戻ってきて、アーニャは驚いてそのチョコレートを飲み込んでしまう。実はそのチョコレートには東西を戦争に導く情報が入ったマイクロフィルムが入っていた。

 その場の危機は駆けつけてヨルによって助けられることになるが、フリジスに到着したアーニャは、謎の軍組織の陰謀に巻き込まれることになってしまう。

 

 

この作品らしい王道のドタバタ活劇

 例によってアーニャがトラブルの元となり、巻き起こる大陰謀に対してロイドとヨルが大活躍するという王道展開である。

 またこの手の映画のお約束として、作品のレギュラーキャラはかなり強引な形で総登場しており、顔見せ作品の要素もある。また当然のことながら、本編を邪魔しないようなシナリオ上の配慮も十二分になされている。なかなかよく練ったシナリオとなっている。

 ストーリー自体はこの作品らしく、荒唐無稽、痛快至極、予定調和といったところ。ロイドのあまりにも早すぎる変装にヨルの物理法則を無視したあり得ないアクションなど、例によって出鱈目のオンパレードであるが、その辺りが豪快なまでの爽快さに繋がっているのがこの作品らしいところ。

 その出鱈目の極致に唐突に登場する見せ場の一つが「うんこの神様」。急に話だけでなくて作画の調子まで完全に変化するが、このシーン専門に美術監修を据えているという力の入れようで、まさに抱腹絶倒ものである。

 この作品の「売り」の一つであるアーニャ百面相も通常に増して華々しい。そう言う意味でシリーズファンを全く裏切らない作品であるが、一応はシリーズを知らない者でも話に引き込むための最低限の説明は加えてある(おかげで序盤はやや説明臭いが)。

 

 

頭をスッカラカンにして楽しめる娯楽大作

 内容的にはギャグあり、航空アクションあり、格闘アクションありとテンポ良い見せ場の連続となっており、十二分に計算された娯楽大作となっている。なおそのような徹底した娯楽作品だけに、テーマがどうこうとか言うような七面倒くさい設定はそもそも存在しない。だがそれでも偽装家族がそれを割り切っているようでありながら、各人がそれを大切に考えていることが覗われ、そこから「家族とは」という話も一応は描かれている。

 なお本作のために登場した悪役キャラ・スナイデル大佐が、銀河万丈の渋い声とも相まってかなり強烈な存在感を放っている。戦争狂いのやや狂気が入ったいかにもの悪役としてしっかりと役割を果たしている。その配下の凸凹コンビ、占い狂いのドミトリとツッコミ役のルカには中村倫也に賀来賢人という俳優陣が起用されているが、絶対悪のスナイデルに対してそこまで腹を括れていない小者感が漂っており、これもなかなかに味を出していて作品に彩りを添えている。

 各人がいかにも各人らしい大活躍をして、それをいかんなく楽しめる大娯楽大作といったところであり、いかにもこの作品の劇場版に相応しい内容であった。理屈抜きで楽しめる大馬鹿映画というのも実に楽しいものである。

 

 

 久しぶりに頭を空っぽにして楽しめる娯楽映画を見たなという印象であった。たまにはこういう作品を見ることも精神の健康を保つためには非常に効果的なように感じられる。なお劇場に到着した時には、劇場内に異常に未就学児童の姿が多く、ファミリー映画だけにこれは下手をすると上映中が地獄絵図になるのではと恐れたが、幸いにして彼らの大半は同時に公開されていた仮面ライダーの方が目的だったようで、本作を視聴する子供は小学生以上が多かった印象で、上映中に走り回ったり大声を上げるなどの大惨事はなくて安心した。結局一番うるさかったのは、後ろの席の親父さんがポップコーンをガラガラとかき回す音であった。