白鷺館アニメ棟

放送中のアニメ作品について、アニメファン歴50年以上という鷺が軽いツッコミを交えて与太話

「大雪海のカイナ ほしのけんじゃ」

新たな独裁者との戦い

 辛うじてバルギアとの戦いに勝利したアトランドであるが、バルギアからの難民を受け入れたこともあって水が数ヶ月で枯渇する危機に瀕していた。この危地を打破するためにリリハはヤオナやカイナと共にアメロテが率いる船で、かねてから計画していた大軌道樹への探索に向かうことにする。途中で境遇に不満を持つバルギア兵らの反乱の危機などもあったが、そのような不和も目の前に発生した危機を協力して乗り越える過程で克服していく。そして一行は大峡谷を越えて大軌道樹のある海へと到着するのだが、そこで謎の攻撃を受ける。彼らを待ち受けていたのは「建設者」を自在に操るビョウザンが率いる独裁国家プラナトだった。ビョウザンは建設者を使って大軌道樹を切り倒すことを目論んでいた。「それが人類を救う道」と説くビョウザンにアメロテは協力をすることにするが・・・。

     
コミックが出ているとは知らなかった

 

 

はた迷惑な独裁者をいかにして抑えるか

 ようやく独裁国家バルギアを退けたと思ったら、より強力な独裁国家がカイナ達の前に立ちはだかるという展開である。なお独裁者であるビョウザンは、明らかに野心に支配されていたハンダーギルとは違って、自身の使命感の強さ故に目の前の情報に飛びついて暴走したという「元は善意から発したはずがそれが視野狭窄を招いて、結果としては世界にとってとんでもない災厄を招こうとする」というはた迷惑なタイプの独裁者である。理想が突っ走ってカルトにドップリはまってしまう教団幹部タイプ(教祖はもろに私利私欲だけのバターンがほとんど)とも言える。

 結局はこの暴走するビョウザンをカイナとリリハがいかに抑えてハッピーエンドにつなげるかというのが話の主眼である。それが大冒険としてなかなかにうまく描かれている。またその過程において、例えば最初は微妙な距離感のあったアトランドの兵士とバルギアの兵士との融和や、さらに象徴的と言えるのはアトランド親衛隊長のオリノガとバルギア士官のアメロテの交流と信頼などの人間関係が巧みに描かれていることもポイントが高い。「人の心が分かる者は負けない」が一つのキーワードになっていたが、まさにその信頼の物語でもある。

 

 

どことなく宮崎駿を連想させる大冒険活劇としてまとまっている

 以前のテレビシリーズからどことなく「未来少年コナン」などのいわゆる宮崎駿臭のようなものが感じられていたが、本劇場版ではそれがさらに露骨になっている。アメロテなどはもろにモンスリーのポジションになっている。本作品の印象を一言で言えば、「未来少年コナン」に「天空の城ラピュタ」を織り交ぜたような作品というところになるか。まさに人類の存亡をかけた巨大なストーリーであるのだが、結局のところのカイナの基本原理はリリハを助けないとという「少女を助ける」という単純な原理に落ちてくるところがある。「何とかしないといけないが、考えはない」と言い切ってしまう単純で純粋なカイナの行動が、皆を引っ張っていくという構成になっている。

 作品はアクション的にもテンポ良く、自然に観客を物語の世界に巻き込んでいく構成になっている。またビョウザンは技術万能主義に取り憑かれた者の象徴でもあり、そういう思想の危うさが一つのテーマとも言えなくもない(もっともそう深いものではない)。とは言うものの、やはり本題は田舎から出て来た素朴な少年が、出会ったお姫様を助けるために世界を股にかけた大冒険をするという冒険活劇の方だろう。そう考えてしまうと単純な作品なのだが、描くべきものをキチンと描いているという手堅い構成が最終的に成功につながったというところである。