大団円に向けて着々進む話
とうとう39巻まで来た本作品。もう既に数巻前から最終結論が見えており、そこに向けて着実にまとめに入っているのが明らかだが、それにしても結論が見えてからやけに引っ張るなという印象もある。もっとも「進撃の巨人」のようにそのことによって話が迷走しだしたり、とか緊張感が途切れるということになっていないのは上手いが。
本巻の前半のネタは、あの性能高すぎてややリアリティーのないAIロボットのブギーが、新しい身体をもらったことでR2D2からC3POに進化したというのが最初。ムッタも言っているように身体がついただけで人間感がさらに増すようになった。「ターミネーターとか見せないようにしよう」と言っていたが、確かにAIが進化しすぎたらそのうちに反乱起こしそうだ。
さらにムッタ達が建設したシャロン電波望遠鏡がついに本格稼働をして観測を開始しましたというお話。ムッタ達が命がけで行った作業が報われましたよという美しい話になっている。
月に向かう前にケジメを付けるヒビト
後半はそのムッタを救出に向かうヒビトのお話だが、ヒビトもいろいろと月に行く前にケジメを付けようとしていることが描かれている。その象徴的な行動の一つがかつてのパニック障害についてのカミングアウト。ヒビトの中でこの件について一つのケリがついたからということで、世間に公開する気になったようである。これはもう既にこの件がヒビトの中では完全に過去の話になったと言うことの象徴。
またこの作品一番のツンデレキャラであるアズにゃんこと吾妻との微笑ましいツーショットシーンの増加。強面の印象とは対称的に裏で細やかに難波兄弟をサポートしてくれていたアズにゃんだが、ここに来て若いロシアクルーの後見人的なたのもしさを見せると共に、ヒビトの仲間としての雰囲気が高まっている。その過程で「ああ、この人って実はこんな人だったんだな」と意外と今まで描かれていなかった彼の人物像を垣間見せており、これはアズにゃんファンも増えそうだ(笑)。人見知りする方だが付き合うと実は良い人という吾妻のキャラは、あのオープンなアメリカ人達の中よりも、むしろロシア人達の中の方がしっくりくるんではということなんかも感じられる。
ヒビトのケジメの一環としてかつてNASAクルーに会いに行っているところなんかは泣けるシーン。バトラー室長とのやりとりなんか、ああやっぱりこの人は人物をよく見てるなと頷かされる。現実はなかなかいないのがこういう上司である。部下のことをよく見て時には大胆に任せたりするが、責任は取るつもりでいるという人。それだけにヒビトのことをフォローしきれなかったのは彼にとっても苦い話だったのだろう。ヒビトは自分の心にケリを付けに行っただけでなく、バトラーをも助けに行ったことになる。
ここに来てもやはりキャラの描き方が上手い
ヒビトが昔のクルーと再会する話なんか、彼らがヒビトに対してわだかまりを持っているはずなどないからサービスカットみたいなもの(笑)。情に厚い脳筋男のバディが完全に号泣なのは笑わされるが、彼ってこういう奴だよなってのがよく描かれている。
終盤いよいよ発射直前となり、様々なロシア流験担ぎ行事をこなしていく様は、かつてのムッタの打ち上げ直前を思い出させて読者としても気分が盛り上がっていくところである。その間に、不躾な記者の質問をピシャリとあしらうアズにゃんの頼もしさ。誰もが「ああ、こういう先輩がいたらな・・・」って憧れるキャラになっている。
最終的な大団円に向けて明らかにまとめに入っているののが感じられる展開だが、ここに来てさらにキャラを深めてきているのはこの作品の上手さである。前巻ではしばらく所在不明に近くなっていたケンジと新田が大活躍してファンを狂喜させた(二人が互いにケンさん、レイ君と呼び合っている所なんかが二人の関係の深化を物語っていたが)ところであるが、その流れは本巻も汲んでいる。これで関係した重要キャラはほぼ網羅された気がするが、やっぱりここに来て再度話に関与して欲しいのはやっさんか。何か師匠の娘とよい関係になっている雰囲気だし(何となく無邪気な中学生カップルみたいな空気もあるが)。後、せりかさんもどこか重要なところで登場するだろう。
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