白鷺館アニメ棟

放送中のアニメ作品について、アニメファン歴50年以上という鷺が軽いツッコミを交えて与太話

キングダム 第59巻

悼襄王の凄さがほとんど話を食ってしまった

 話がかなり激しく動いた巻です。王翦が斉から食料を買い付けたり、信が李信を名乗ることになって将軍になったりなどかなり目まぐるしい展開がありましたが、やっぱり今回の主役は趙の悼襄王でしょう。いやー、すごすぎです。亡国の愚王と考えていましたが、失礼しました。そういうレベルではありませんでした。これは最早趙を滅ぼすために取り憑いた悪霊の類いです。まさか自分が亡くなった後まで確実に亡国するための布石を行っていたとは。恐らく大昔に趙に滅ぼされた小国の王族が怨霊になって取り憑いたのでしょう・・・とでも考えないと辻褄が合わないほどの強烈な亡国への執念。あまりに凄まじすぎて前半の展開が頭から飛んでしまった。

     

 この悼襄王の亡国に対する執念には、さすがの李牧様とてしょぼくれて「疲れました」という言葉しか出ない状態になってしまった。李牧としてはあの英明な太子の代にさえなれば趙は立ち直ると信じており、実際にその可能性が見えて「さあ、これからだ」となった挙げ句の夢も希望も奪い去る結果ですからね。さすがにこの巻の李牧様には同情するというか、涙が出そうになりますね。しかし実際にこういう有能で真面目な人に限って報われずに後から弾が飛んできたりするものです。

 さて史実では悼襄王って明らかに暗君ですが、ここまで異常な王ってわけではないんですよね。まあ秦の侵攻に一方的に負けまくって、その挙げ句にその最中に死んでしまうというのが史実のようです。そして後継は溺愛していた后の生んだ皇子にするために、後継ぎだったはずの公子嘉を廃嫡にしている(まあこの選択だけでも暗君の烙印を押すには十分なんですが)。で、後を継いだのが公子遷こと幽繆王(名前に幽が付く王は無能という意味になる)で、彼が趙を滅ぼす。歴史的に見れば秦の攻勢に対して李牧と司馬尚(以前にチョロッとだけ出ましたね)が必死で対抗し、この時に李牧は桓騎を討ち取ったりするわけだが、李牧がいては趙の攻略が困難と考えた秦が郭開を買収して諫言させ(この作品の郭開だったら買収するまでもなさそうだが)、それを信じた馬鹿王が李牧を処刑して司馬尚は更迭、これで完全に趙は詰んでしまうという展開。幽繆王も相当の無能ですが、ただ今回登場したような「変態」との記述はない(笑)。その後、公子嘉は代に逃げて亡命政権を樹立するらしいが、それも王賁に攻められてジ・エンドってことらしい。

 

信が李信となって、ついに将軍に

 で、悼襄王のあまりの凄さにぶっ飛んでしまった前半ですが、とりあえず食糧問題は王翦が斉から買い付けという形で決着。秦と斉の間に裏で盟約があったのが効いているという展開ですが、実際は斉は根っからの商売人の国ですから、倍の価格を提示していたら盟約なくても食料売った可能性はあります。食料を運ぶとしたら河川ルートしかないとは私も考えていましたが、やっぱり秦から運んだら李牧様が鉄壁の布陣で待ち受けってのは常識でしょう。私も「大商人から買い付ける」辺りまでは可能性として考えてましたが、斉の存在をうっかり失念してました。あれこそ一番の大商人だから。

 そして信はついに将軍となり、最初に登場した時に名乗っていた「李信」となりました。ちなみに李信は実在の将軍で、楚攻めの時に「60万の兵が必要」と言った王翦に対し、「20万で十分」と言って蒙恬と二人で意気揚々と楚攻略に向かうんだが、楚が出して来た名将・項燕にケチョンケチョンにやられて大損害を出す。この辺りの話は私も学生の時に漢文の授業で習っている。その時に先生が「李信はここで惨敗するんだが、この後に再び将軍として活躍しており、あの人間不信で酷薄な始皇帝がこれだけの大失敗でも粛正しなかったところから見て、李信は始皇帝の友人だったんだろう。」という話をしていたんだが、その通りの設定になっているのがまさに本作です。ちなみに私のこのエピソードはザッと40年近く前の話なので、私の先生は本作を読んでいたわけではありません(笑)。

 と言うわけで今後の展開としては、現在はドツボ状態の李牧様ですが、何とかここから建て直して桓騎を討ち取るものの、結局は馬鹿王のせいで処刑されて終わりってのが史実です。どうやらこの作品は史実に明確にあるものは否定しないスタンスのようですので、李牧様は李信に討たれるわけではないです。ただし作品として考えた場合、李信が李牧を討たなかったとしても、何らかの形で決着はつけるでしょうね。でないと李信が先に進めないですから。